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最高裁判所第三小法廷 昭和49年(オ)333号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人田中寿秋の上告理由について

債務者である土地の賃借人がその賃借地上に所有する建物を譲渡担保とした場合には、その建物のみを担保の目的に供したことが明らかであるなど特別の事情がない限り、右譲渡担保権の効力は、原則として土地の賃借権に及び、債権者が担保権の実行としての換価処分により建物の所有権をみずから確定的に取得し又は第三者にこれを取得させたときは、これに随伴して土地の賃借権もまた債権者又は第三者に譲渡されると解すべきである。したがつて、債権者がいわゆる帰属清算の方法により建物の所有権を取得する場合において、債務者に交付すべき清算金額を算定するにあたつては、特段の事情のない限り、借地権付の建物として適正に評価された価額を基準としてすることを要する(この場合、土地賃借権の譲渡の承諾を得るにつき土地の賃貸人に対し適正な金額の給付を要するときは、右金額は、換価に要する相当な費用として、清算金額の算定上控除することができる。)。しかしながら、土地賃借権の譲渡について賃貸人の承諾(又はこれに代わる許可の裁判)を得ることが不可能又は著しく困難な事情にあつて、債権者が建物の所有権を取得しても借地法一〇条による建物買取請求権の行使をするほかはないと認められるときは、右買取請求権を行使した場合における建物の時価を基準として清算金額を算定することが許されると解するのが、相当である。

原判決は、措辞いささか明確を欠くが、結局において右と同旨の見解に立脚しつつ、本件の土地賃借権の残存期間や賃貸人が契約終了を理由に土地の明渡しを要求していることなどを含む従前の経過その他の諸事情をしんしやくしたうえ、本件建物を債権者である被上告人が取得するとしても、土地賃借権の譲渡につきとうてい賃貸人の承諾を得ることができず、建物買取請求権を行使する以外に方途がない旨の事情の存在を認定し、その場合における本件建物の時価をもつて本件建物の適正評価額としたうえ清算金額が金四〇万円を上回るものではないと算定したものと認められる。そして、原判決挙示の証拠関係に照らすと、所論の点に関する原審の認定判断は正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 天野武一 裁判官 江里口清雄 裁判官 高辻正己 裁判官 服部高顕 裁判官 環 昌一)

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